しとしと。島にも梅雨の時期がきました。
草も木も土も、みんなにじんでいつもとは違う匂いがします。
トトはまだ通ったことのない獣道を歩いてみることにしました。
木から滑り降りた水滴がトトをずぶ濡れにしてしまいます。
しばらく行くと同じようにずぶ濡れの浴衣の女の子がいました。
「なあに、あなた。そんなに雨に濡れて嬉しそうに。ばかみたい」
からから笑った女の子に、トトも言い返します。
「君もぼくとお揃いだね」
女の子はぽかんと口をあけて呆れます。
ばかにしてるのに、とひとりごと。
「君もひとりきり?ぼくと一緒に行く?」
「ばかにしないでよ。あたしはひとりじゃないわ。沢山友達がいるの」
「そうなんだ?」
「あんたがどーーーーーーしてもっていうなら、一緒に行ってあげるわよ」
トトがうん、お願い!と言うと、女の子はにんまりと笑いました。
「しょうがないわね。ちゃんとついてきなさいよ」
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二人はしばらく一緒に歩きました。
女の子はトトのお菓子作りの話に興味をもったらしく、熱心に聞いていました。
やがて雨粒が少なくなってきたとき、女の子は言いました。
「もうすぐ、帰らなくてはいけないの」
「家は遠いの?」
「おうちはないわ。消えちゃうもの。また生まれたときには、違うあたしになるの」
女の子は悲しそうに目を伏せました。
しとしと降る雨がだんだん途切れ途切れになります。
雨雲が重い足取りで空を歩き、青い色が段々見えてきました。
「じゃあ、ここでまた友達になればいいね」
トトが笑って言うと、女の子も笑いました。
「やっぱりあなた、ばかみたい。でも教えてあげる。あたしの名前ね、つゆっていうのよ」
最後にひとつぶだけ、雫が落ちてきました。
もう、女の子の姿はありません。
久しぶりに顔をのぞかせた青空が広がっていました。
梅雨が明けます。